最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)79号 判決 1948年12月07日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
本件上告の理由は末尾添附の上告理由申立書と題する書面記載のごとくであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
上告理由第一点及び第二点について。
選挙人の投票が有効であるがためには、候補者の何人を記載したかを確認し得るものでなければならないことは所論のとおりである。
ところで原告はかかる観点から「およそ選挙においては通常選挙人は候補者に投票するものであること」を前提として「投票記載の氏名が正確には候補者の氏名を書いたものでなくとも、投票記載の氏名と類似の候補者が存在していて諸般の情況から該候補者に投票する意思で書かれたもの」と認められる限り該候補者のための有効投票と判断すべきであるとして、本件選挙に際し立候補した者のうち、上に「下」の字下に「田」の字のある姓の者すべてを挙げて比較検討した末に本件係争の二票を下畑九良一のための有効投票であると認定したのであつて、その趣旨とするところは右の二票が候補者下畑九良一を記載したものと確認したのである。また原判文によれば、原審はみだりに推測をほしいままにして投票人の真意を無視したものではなく、判示のような根拠によつて投票人の真意を探究したのであるから、原判決には所論のように選挙法規の要求する投票判断の法則に反して判断した違法はなく論旨は理由がない。
第三点について。
選挙において投票用紙に候補者の氏名を記載すべきものとしたのは、これによつて候補者の何人を記載したかゞ確認し得られることを必要とするからである。選挙人は投票用紙に候補者一人の氏名を記載しなければならず、二人以上の候補者の氏名を記載した投票を無効とするのはこれがためである。されば、投票用紙に人の姓若しくは名のみを記載した投票であつても、これによつて候補者の何人を記載したかを確認し得る限り投票の目的に関する法の要請は満たされるのであるから、かかる記載による投票は無効とならないものと言わなければならぬ。それ故、右と異る見解の下に原判決の違法を主張する論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。
以上は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)